2026年2月23日

【この記事のポイント(要約)】
「飲んでいる」と「下がる」は別: 高血圧治療は薬を飲むことではなく、**「目標血圧の達成」**があって初めて将来の臓器障害(心筋梗塞・脳卒中など)を防げます。
目指すべきは「努力が報われる治療」: 服薬や通院をしていても目標血圧に届いていない状態は、せっかくの努力や費用が成果に結びつかず、実は「一番もったいない状態」です。
アルドステロンブレイクスルーとは: 降圧薬(ACE阻害薬/ARB)を長期間飲むことで、再び血圧を上げるホルモン(アルドステロン)が増加し、薬が効きにくくなる現象です。
解決へのアプローチ: 血圧が再上昇してきた場合、アルドステロンの働きを直接抑える**「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)」**の追加・調整が効果的な選択肢となります。
早期対応がカギ: 40〜50代の働き盛り世代から適切な血圧管理を行うことで、将来的な多剤併用を防ぎ、薬を減量・離脱できる可能性が高まります。
こんにちは。百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニックです。
先日、「JSH2025(日本高血圧学会)高血圧診療の未来を切り拓く ~かかりつけ医で診る~」の講演会にて、基調講演の座長を務めてまいりました。 同会では、東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科教授の市原淳弘先生より、「ミネラルコルチコイド受容体関連高血圧」に関する非常に示唆に富む特別講演がなされました。
現在、高血圧のお薬(降圧薬)を内服されている皆様、ご自身の血圧は「目標血圧」まで十分に下がっていますでしょうか?
「飲み始めた頃は下がっていたのに、最近また血圧が高くなってきた…」という方は、背景にホルモンバランスの変化(ミネラルコルチコイド関連高血圧)が隠れているかもしれません。
1. 実はもったいない?「服薬」と「目標血圧の達成」の大きな違い
毎日の服薬や定期的な通院など、患者様は将来の健康を守るために日々大きな労力とコスト(時間や薬代)をかけられています。
しかし、循環器専門医として非常にもったいないと感じるのが、「お薬をちゃんと飲んでいるのに、目標血圧まで下がっていない状態」のまま放置されてしまっているケースです。
高血圧の治療は、「薬を飲んでいるから大丈夫」ではなく、「目標血圧を達成できて初めて安心(臓器障害を予防)できる」という原則があります。
目標血圧に届いていない状態のまま過ごしてしまうと、せっかく通院してお薬を飲み続けている努力や費用が、「将来の心筋梗塞や脳卒中を防ぐ」という本来得られるはずの大きなメリット(成果)に十分に結びついていない(=一番もったいない状態になっている)可能性があるのです。
当院では、患者様のその大切な努力やご負担が無駄にならないよう、一人ひとりの体質やホルモンバランスに合わせた「目標達成のための丁寧な調整」を行っています。
💡 エビデンスが示す「たった数ミリ(mmHg)の未達成」が及ぼす影響
「目標より上の血圧が10〜15mmHg高いだけなら、薬も飲んでいるし大丈夫だろう」と思われるかもしれません。しかし、大規模な臨床研究(SPRINT試験など)や疫学データでは、目標血圧を達成できているかどうかで将来の健康リスクに明確な差が出ることが証明されています。
心血管事故(心筋梗塞・脳卒中・心不全等)のリスク:
血圧の管理目標を厳格に達成したグループは、標準的な管理に留まったグループと比較して、心不全の発症リスクが約38%減少し、全死亡リスクも約27%低下することが大規模臨床試験(SPRINT trial, N Engl J Med 2015)で示されています。
認知機能や健康寿命への影響:
目標血圧の未達成により、脳の微小な血管障害(無症候性脳梗塞や白質病変)がじわじわと進行します。長期的な追跡研究(久山町研究など)でも、中年期からの未達成な高血圧状態の放置は、将来の認知症(血管性認知症・アルツハイマー病)や要介護状態の発症リスクを約1.5〜2倍に高めることが分かっています。
つまり、お薬を飲んで「少し下がった」ところで満足してしまい、目標血圧(例:診察室血圧 130/80 mmHg未満)に届かない状態を何年も放置することは、将来の健康寿命(元気に自立して生活できる期間)を数年単位で損ねてしまうリスクに直結しているのです。
💡 目標未達の放置で「健康寿命」が約3〜5年短縮するおそれ
「薬を飲んで少し下がったから大丈夫」「目標より10mmHg高いだけだから様子を見よう」と思われるかもしれません。しかし、目標血圧に届かない状態を放置していると、将来への影響は決して小さくありません。
日本人の貴重な追跡データ(久山町研究)や海外の大規模疫学調査(Framingham Heart Studyなど)によると、高血圧や未達成な血圧状態をそのままにした場合、脳卒中や心不全、認知症を発症するリスクが高まり、「元気に自立して生活できる期間(健康寿命)」が平均で約3〜5年短縮すると推計されています。
逆に、お薬の適切な調整や生活習慣の改善によって目標血圧(例:130/80 mmHg未満)をしっかり達成し続ければ、将来の重症化リスクを大きく減らし、「元気で自分らしく過ごせる時間」を数年単位で取り戻すことができるのです。
だからこそ、「ただお薬を飲む」だけで終わらせず、「目標血圧に到達させること」が、患者様ご自身の将来の人生を守るために何より重要なのです。
2. 血圧を調整する「レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系」とは?

私たちの体内には、血圧をコントロールする「レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAAS)」というホルモンのシステムが存在します。
このシステムは、太古の昔に生物が海から陸へ上陸する際、体内に水分や塩分(ナトリウム)を保持するために獲得した生命維持装置です。しかし、現代社会においては、このホルモンが必要以上に分泌されることで高血圧を引き起こす原因となります。
循環器科医が日頃の診療で第一選択として好んで処方するのが、このシステムをブロックする以下のようなお薬です。これらは血圧を下げるだけでなく、心臓・腎臓・脳を守る強い保護作用が数々のエビデンスで認められています。
ご自身のお薬をチェックしてみましょう!
アンギオテンシン転換酵素阻害薬(ACE阻害薬): イミダプリル(タナトリル)、エナラプリル(レニベース)など
アンギオテンシンⅡ受容体AT1阻害薬(ARB): カンデサルタン(ブロプレス)、テルミサルタン(ミカルディス)、ロサルタン(ニューロタン)、オルメサルタン(オルメテック)、アジルサルタン(アジルバ)など

3. 薬が効かなくなる?「アルドステロンブレイクスルー」の恐怖
ACE阻害薬やARBを内服すると、一時的にアルドステロンというホルモンが減少し、血圧はすんなりと下がります。
しかし、これらの薬を長期間内服し続けると、体内の回避ルートを通じて再びアルドステロン濃度が上昇してきてしまう現象が起こります。これを医学用語で「アルドステロンブレイクスルー」と呼びます。
簡単に言うと、「体がお薬に慣れて(逃げ道を作って)、再び血圧が上がり始めてしまう現象」です。
学術データにみるブレイクスルーの発現率
報告によると、アルドステロンブレイクスルーの発生頻度は以下の通り決して珍しいものではありません。
ACE阻害薬内服時: 約40〜50%
ARB内服時: 約20〜30%
※なお、ARBの中でも「オルメサルタン」や「アジルサルタン」は、アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)を活性化させる独自の作用により、アンギオテンシンⅡ濃度を下げ、アルドステロンブレイクスルーを起こしにくい薬剤として知られています。
4. 血圧が再上昇した時の切り札「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)」
「お薬を飲んでいるのに目標血圧に届かない」「徐々に血圧が上がってきた」という場合、このアルドステロンブレイクスルー(ミネラルコルチコイド関連高血圧)が疑われます。
このようなケースで極めて有効なのが、アルドステロンの作用を最終段階で直接ブロックする「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)」の追加・切り替えです。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)の種類
従来型(第1・第2世代): スピロノラクトン(アルダクトンA)、エプレレノン(セララ)
新規選択的MRB(第3世代): エサキセレノン(ミネブロ): 高血圧症に高い降圧効果と安全性を示します。 フィネレノン(ケレンディア): ※高血圧単独の適応はありませんが、糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)や心不全に対して強力な臓器保護効果を発揮します。
血圧のコントロール状態に合わせて適切なお薬を選択・併用することで、通院の努力をしっかり成果へと結びつけ、目標血圧への到達が可能になります。
5. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 血圧の薬は一度飲み始めたら、一生やめられないのですか?
A. 早期に治療を開始すれば、将来的に減量・やめられる可能性があります。 初期の高血圧であれば、生活習慣の改善(減塩や運動)とお薬1種類の併用で速やかに血圧が安定します。血管の柔軟性が保たれている早期段階で適切に管理できれば、生活習慣の定着とともに減量や休薬を目指すことが可能です。放置して動脈硬化が進むと、2種類、3種類とお薬を増やさざるを得なくなるため「早期の対応」がカギとなります。
Q2. 上の血圧が135くらいなら、「薬を飲んでいるし様子見」で大丈夫ですか?
A. ご自身の「目標血圧」に達しているかが重要です。 日本高血圧学会のガイドラインでは、75歳未満の成人の降圧目標は原則「診察室血圧 130/80 mmHg未満(家庭血圧 125/75 mmHg未満)」と定められています(※持病や年齢により異なります)。「135」は一見悪くない数字に見えますが、目標未達のまま放置すると、数年〜数十年単位で脳梗塞や心不全、認知症のリスクが徐々に蓄積してしまいます。
Q3. 「アルドステロンブレイクスルー」が起きているかどうかは検査で分かりますか?
A. 血液検査・尿検査や、降圧薬の反応(血圧推移)から総合的に判断します。 血液中のアルドステロン値やレニン活性の測定、また日々の「家庭血圧の記録」を分析することで推測が可能です。「最近血圧が上がってきた」という血圧手帳のデータ自体が、治療アプローチを変える大きな手がかりになります。
まとめ:放置せず、早めの受診で将来の血管を守りましょう
高血圧治療の真の目的は、「将来の心筋梗塞、脳卒中、透析などの重大な病気を防ぎ、健康寿命を延ばすこと」にあります。
特に働き盛りである40〜50代の方こそ、仕事や生活を守るために妥協のない血圧管理が必要です。「数値が高めだが放置している」「薬を飲んでいるのに下がらない」という方は、どうぞ我慢なさらず当院へご相談ください。
地域の皆様へ:百合ヶ丘・小田急線沿線で高血圧・循環器疾患をお悩みの方へ
当院「百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック」は、小田急線「百合ヶ丘駅」すぐ、新百合ヶ丘・生田・読売ランド前・柿生など小田急線沿線にお住まい・お勤めの皆様の「かかりつけ医・循環器専門医」です。
高血圧や不整脈などの専門診療はもちろん、風邪などの体調不良、糖尿病などの生活習慣病、甲状腺疾患まで幅広く対応しております。健診結果の紙や、現在の「血圧手帳」をお持ちいただくだけでも構いません。お気軽にご受診ください。
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【参考文献・医学的根拠】
日本高血圧学会 著『高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』
市原淳弘 著『ミネラルコルチコイド受容体関連高血圧の最新知見』(JSH2025特別講演より)
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記事監修:院長 津田泰任(循環器専門医、総合内科専門医、不整脈専門医)
