2026年5月10日

はじめに
川崎市麻生区の百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニックです。
健康診断の結果に「上室性期外収縮(PAC)」と書かれていたり、Apple Watchから「不規則な心拍」の通知が届いて不安を感じてはいませんか?
「放置して大丈夫」と言われることも多いこの不整脈ですが、最新の医学研究では、将来の重篤な病気を防ぐための「重要なサイン」であることが分かってきました。今回は、そのリスクと具体的な受診の目安についてエビデンスを基に解説します。
上室性期外収縮(PAC)とは?
心臓は通常、規則正しく拍動していますが、本来のタイミングよりも早く電気信号が発生し、脈が飛んだり乱れたりする状態を「期外収縮」と呼びます。そのうち、心房(心臓の上側の部屋)から発生するものを上室性期外収縮(PAC)と言います。
これまでは「治療不要な不整脈」の代名詞でしたが、近年の循環器内科では、「心房細動(脳梗塞の大きな原因)」の強力な予測因子として非常に重要視されています。

【エビデンス】上室性期外収縮は1日何回からが「ハイリスク」なのか?
「たまに脈が飛ぶ程度なら大丈夫なのか?」という疑問に対し、最新の研究データは明確な指標を示しています。
① 「1日500回以上」でリスクが上昇
デンマークで行われた大規模研究では、24時間の心電図検査において以下の条件に当てはまる場合、心房細動の発症リスクや脳卒中による入院リスクが有意に高いことが報告されました。
1時間あたり30回以上(1日換算で約700回以上)のPAC
または、5連発以上の頻拍(ラン)が1日に1回以上ある
出典: Circulation (2010) – Excessive supraventricular ectopic activity and increased risk of atrial fibrillation and stroke.
② 「1日1,000回」が一つの警戒ライン
一般的に1日の総心拍数は約10万回ですが、その1%(約1,000回)を超えてPACが出現する場合、将来の心房細動発症率が極めて高いことが示されています。
出典: JACC (2015) – Frequent Atrial Premature Beats and Atrial Fibrillation
PACが頻発すると心房に負荷がかかり、心臓が変形(線維化)しやすくなります。これが、恐ろしい脳梗塞を引き起こす「心房細動」の土壌となってしまうのです。
「上室期外収縮」は心房細動へのカウントダウン?
上室期外収縮とは、心房(心臓の上の部屋)から予定外のタイミングで電気信号が出る、いわゆる「脈の飛び」です。
かつては「病気ではない」と片付けられることもありましたが、近年の研究(Haïssaguerreらの報告など)により、この期外収縮が繰り返されることで、心臓がダメージを受け、「心房細動」というより深刻な不整脈に移行することが明確になっています。
心房細動は、心臓の中に血栓(血の塊)を作り、それが血流に乗り脳に流れていくと重篤な脳梗塞を引き起こします。
EMBRACE Steering Committee and Investigators.Stroke. 2015 Apr;46(4):936-41. doi: 10.1161/STROKEAHA.115.008714. Epub 2015 Feb 19.PMID: 25700289 Clinical Trial.
原因不明の脳卒中または一過性脳虚血発作を起こし、洞調律で既知の心房細動のない55歳以上の患者を対象に前向き研究です。
90日間の心房細動検出率全体が16%であったのに対し、心房細動の確率は、24時間あたりの上室性期外収縮が100未満の患者では9%未満から、100~499の患者では9%~24%、500~999の患者では25%~37%、1000~1499の患者では37%~40%、1500を超える患者では40%に増加したことが報告されております。

ホルター心電図でチェックすべき「危険な兆候」
当院でも行っている「ホルター心電図(24時間心電図)」では、単に脈が飛んでいるかどうかだけでなく、その「質」と「量」を分析します。
特に注意が必要なのは、以下のようなケースです。
頻度が高い: 1日に1,000回以上の期外収縮がある(心房細動発症のリスクが数倍高まるとの研究があります)。
連発している: 2発、3発とタタタン!と連続して出る「ショートラン」。これは心房細動の直前状態であることが多いです。
夜間やリラックス時に出る: 自律神経のバランスが崩れ、心筋に負担がかかっているサインです。
なぜ働き盛りの世代に「今」受診してほしいのか
40代〜50代の方は、仕事のストレス、多忙による睡眠不足、飲酒習慣などが重なり、心臓の電気系統が不安定になりやすい時期です。
「まだ若いから」「ただの動悸だから」と放置している間に、心臓の構造そのものが変化(心房の拡大など)してしまうと、いざ治療を始めようとしても治りにくくなってしまいます。
「期外収縮」の段階で生活習慣を見直し、必要であれば適切な治療を検討すること。 これこそが、10年後、20年後の健康寿命を左右する「究極のリスク管理」です。
Apple Watchなどのスマートウォッチを活用されている方へ
最近では、Apple Watchの心電図アプリ等でご自身の不整脈に気づく方が増えています。 家庭で記録されたデータは、病院での診断において「いつ、どの程度の頻度で起きているか」を把握するための非常に貴重な資料になります。
もし「不規則な心拍の通知」が届いたら、その画面のスクリーンショットを保存し、当院までご持参ください。早期発見・早期対策があなたの未来を守ります。
よくあるQ&A
Q1. 症状がなくても受診したほうが良いですか?
A. はい、ぜひ一度ご相談ください。 PAC自体は良性でも、背景に「心臓の構造的な異常(心拡大や弁膜症)」が隠れている場合があります。当院では心エコー検査などで、心臓のポンプ機能に問題がないかを詳しく評価します。
Q2. 薬以外で自分にできる対策はありますか?
A. 生活習慣の改善が、不整脈の頻度を抑える鍵です。 PACは自律神経の状態に敏感に反応します。以下の対策を心がけましょう。
節酒・禁煙: アルコールは心房を直接刺激し、不整脈を誘発します。
睡眠不足の解消: 過労を避け、十分な休息をとることで心臓の電気的安定が保たれます。
カフェインの調整: コーヒーやエナジードリンクの過剰摂取は控えましょう。
血圧管理: 高血圧は心房を拡大させ、PACを悪化させる最大の要因の一つです。
早期のチェックで安心を
上室性期外収縮は、いわば「心臓からの小さな警告」です。 「ただの期外収縮だから」と自己判断で放置せず、まずは専門医によるリスク評価を受けましょう。当院では、患者さん一人ひとりのライフスタイルに合わせた最適な管理プランをご提案します。
当院は、不整脈などの循環器専門疾患をはじめ「内科のかかりつけ医」として風邪などの体調不良、高血圧などの生活習慣病、甲状腺疾患などの内分泌疾患のご相談まで幅広く対応しております。体調のことで気になることがあれば当院までご相談ください。
記事監修:院長 津田泰任(不整脈専門医・総合内科専門医・循環器専門医)
