2025年11月09日

徐々に気温が下がり、血圧が変動し高くなりやすい時期となりました。
本年、6年ぶりに改定となる「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が発表され、血圧の目標値は年齢によらず、家庭血圧:127/75mmHg未満、診察室・病院での血圧:130/80mmHg未満、となりました。
ただし、血圧を下げすぎることによりめまいや立ち眩みなどの症状を生じる場合は、特に高齢者では転倒のリスクが高まるため、個々の状況に応じて血圧の目標値を変える必要があります。
■高血圧はサイレントキラー
日本における高血圧が原因で起こる脳心血管病の死亡者数は年間で17万人と推測されており、脳心血管病死亡の約40%が120/80mmHgを超える血圧高値によるものであると推測されております。すなわち、血圧が120/80mmHgを超えて高くなればなるほど、脳卒中、狭心症・心筋梗塞、心房細動、心不全、慢性腎臓病、認知症などのリスクが高くなります。
高血圧は、日本人の三大死因のうちの二大死因の最も原因となっている疾患です。高血圧だけではほとんど自覚症状がないため、現在、日本に約4300万人と推定されている高血圧患者のうち実際に治療を受けられている方は約860万人(2割程度)と言われております。
高血圧は症状を自覚したときには手遅れになる可能性が高い、まさに「サイレントキラー」です。
■日本人の高血圧の特徴
欧米人に比べ、日本人は「食塩感受性高血圧」が多く、日本人の3~5割程度が遺伝的に食塩の影響を受けやすいと言われております。
1950年代の東北地方の調査では1日の食塩の摂取量は平均25gに達しておりました。健康意識の高まりから徐々に食塩摂取量は低下してきておりますが、令和5年の調査結果でも食塩摂取量は男性で平均10.7g/日、女性で9.1g/日と高い水準にあります。
2012年に発表された世界保健機構(WHO)のナトリウム摂取に関するガイドラインでは、一般成人の食塩摂取量は5g/日未満とすべきとしており、目標に遠く及ばないのが現状です。
また、以前は食塩摂取量の多い瘦せた高血圧の方が多かったですが、食生活の変化により、近年、特に男性では肥満を伴う高血圧の方が増加傾向です。
■血圧が130台の方は大丈夫?
現在、高血圧のガイドラインでは、上の血圧(収縮期血圧)が125~134mmHg、下の血圧(拡張期血圧)が75~84mmHgの方は、「高値血圧」と定義されております。
「高値血圧」の方も注意が必要です。アメリカの国立衛生研究所が主導で行われたSPRINT試験では、収縮期血圧120mmHg未満を治療目標とすることが示されました。
SPRINT試験:50歳以上の約9,300人の高血圧患者さんを対象に、以下の2つの治療目標を比較しております。
〇標準治療群:収縮期血圧を140mmHg未満に管理
〇強化治療群:収縮期血圧を120mmHg未満に管理
その結果、強化治療群は標準治療群と比較して、心筋梗塞や心不全などの心血管イベントが25%も低下し、全死亡率も27%低下したことが示されました。
(https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p1921)
この結果から、正常とされていた「高値血圧」の方も注意すべき対象であり、アメリカやヨーロッパでは、治療時の降圧目標は、収縮期血圧で120mmHg台が推奨されております。
■高血圧を放置すると
年齢以上の動脈硬化が進み、脳卒中や心疾患のリスクが高くなります。心臓に対しては、高血圧によって心臓の筋肉が肥大し、肥大した心筋は硬くなります。硬くなった心筋は、例えると厚手のゴム風船のように膨らみにくく拡張障害となり、心不全を発症するリスクが高くなります。さらに高血圧によって心房細動などの不整脈を合併するとますます心臓機能は悪化します。
また血管の集合体である腎臓に対しての影響も大きいです。糖尿病による慢性腎不全での血液透析は、糖尿病に対する様々な治療薬の開発により2010年頃より減少傾向にあるのに対して、高血圧が原因となる腎硬化症からの血液透析患者は年々増加傾向であります。
その他、高血圧は認知機能にも影響すると言われており、特に中年期の高血圧は将来的な認知症の予防の観点から積極的に治療すべきであると考えられています。
■まずは生活習慣の改善と循環器専門医へのご相談を
まずはご自身の血圧を正確に把握することが大切です。ご家庭での血圧測定を行いましょう。
食塩感受性が高い日本人には、塩分制限は必須です。また塩分制限と同時にカリウム摂取も重要です。カリウムを摂取することで、血圧が低下し、脳心血管疾患や死亡リスクの減少が認められております。
カリウムを摂取するためには、①野菜を1日350g、②果物を200g摂取、③低脂肪乳・乳製品、緑茶やコーヒーなど、を組み合わせて摂取するようにしましょう。食卓塩ではなくミネラル塩を使用することもお勧めです。理想的な食事は、肉類よりも魚を主とする、主食に全粒穀物を取り入れる、豆類を摂る、ナッツ類(無塩)を摂る、などです。
バナナは特にカリウムが豊富な果物で、1本で430㎎のカリウムを摂取することができます。
ただし、腎臓機能が低下している方は、高カリウム血症のリスクが高まりますので、摂取する量は医師と相談してください。
また、毎日30分以上の有酸素運動も推奨されます。健康寿命を延ばすためには、9000歩/日のウォーキングを目標とすると良いでしょう。
アルコール摂取も高血圧と関連しており、多量の飲酒は、高血圧や脳卒中、アルコール心筋症、心房細動、睡眠時無呼吸症候群、がんの原因にもなり、死亡率を高めてしまします。アルコール摂取量の目安は、男性で、日本酒1合程度(ビール中瓶1本、焼酎半合、ワイン2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)/日程度、女性は男性の約半分程度になります。
その他、禁煙はもちろんのこと、睡眠も重要です。睡眠時間は7時間程度が最も良く、それより短すぎても長すぎても高血圧発症に関連しております。
寒さも血圧上昇を引き起こしますので、これからの季節である冬季は特に注意しましょう。入浴時の死亡リスクが高いことが知られており、脱衣所・浴室の温度調節などを行い急な血圧の変化を起こさないようにしましょう。
その他、高血圧症でお困りのことがあれば、循環器内科専門医へご相談ください。
