
心不全
心不全
心臓は、1日約10万回収縮と拡張をポンプのように繰り返し、皆様の体の隅々まで血液を送り出している人間のエンジンとなる小さな臓器です。皆様の睡眠中も絶えず休みことなく動いており疲れ知らずですが、さまざまな原因で心臓のポンプ機能が低下し失われた状態が心不全です。
心不全は体に水分が貯まってしまう病気であり、その治療には尿を出しやすくする薬(利尿剤)が用いられてきましたが、ここ10年で心不全の治療は進歩し、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、ARNI、そして糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬の4つのお薬が心不全の重要な治療薬となっております。これら4種類のお薬は「ファンタスティック4」と呼ばれており、当院ではこれらのお薬を中心に患者様の病状に応じて内服の調整を行ってまいります。
治療方法の選択は、心不全の原因、症状の重さ、患者様の年齢や全体的な健康状態に基づいて専門的な判断が必要であり、個別に判断し決定いたします。
心不全は悪化と改善を繰り返しながら徐々に心臓のポンプ機能が失われていく病気ですので、生活習慣の改善を心がけやお薬の服用を忘れないように気をつけていきましょう。
心不全は、心臓が血液を体内に十分に送り出せなくなる状態で、心臓のポンプ機能が低下することによって引き起こされます。これは心筋梗塞や心臓弁膜症、心筋炎などのさまざまな原因で心臓の力強さが失われ、徐々に進行していく病気です。
心不全は心筋梗塞や心筋炎などが原因で急激に心臓の力強さが失われる「急性心不全」と、急性心不全が回復した後も心臓の力強さが戻らない状態や徐々に心臓の力強さが失われていく「慢性心不全」に分けられます。
急性心不全は短期間で急激に症状が現れ呼吸困難などを引き起こしますので、重症の場合は命に関わる危険性が高くなります。救急車を呼んでいただき緊急の対応が必要になることが多いです。
一方、慢性心不全は徐々に進行し、ちょっとした動作で動悸や息切れ、疲れやすさ、むくみなどが現れます。
心臓は電圧、血流は電流、血圧は抵抗値と置き換えることができます。抵抗値が高くなると高い電圧が必要になるように、血圧が高くなるとそれに比例して心臓も強い力で血液を送り出さなければなりません。血圧が高くなりすぎて心臓と血圧のバランスが崩れてしまうと心不全となります。急激に血圧が上昇し過剰な負担が心臓にかかると急性心不全を起こす可能性が高く、また高血圧が長期間続くと、心臓の筋肉が硬くなり次第にポンプ機能が弱くなり、心不全を引き起こす可能性があります。
心臓は規則正しく動くことで、全身に効率よく血液を送り出しています。
脈が速すぎたり遅すぎたりする場合、または不規則に拍動する場合が不整脈であり、心臓の効率的なポンプ機能が低下し、十分な血液を送り出すことができなくなります。特に、心房細動や心室頻拍などの重度の不整脈が心不全を引き起こすことがあります。
心臓自身も血液の供給がなければ動くことができません。冠動脈は心臓に血液を供給する重要な血管です。動脈硬化で血管が狭くなると、血流が低下し、心臓が十分な酸素を受け取れなくなります。これを「心筋虚血」と呼び、この状態が長く続くと心臓のポンプ機能が低下することになります。
心臓には4つの弁があり、それぞれが血液の流れを一方向に調節しています。しかし、心臓弁膜症では、これらの弁が開かなくなったり、閉じなくなったりすることがあります病気です。弁が適切に機能しないことにより、血液が逆流したり、十分に送り出されなくなったりするため心臓に過度な負担がかかりポンプ機能が低下します。
心筋自体に異常が生じる疾患です。心筋症にはいくつかの種類がありますが、いずれも心臓の収縮機能が低下するため、血液を十分に送り出すことができなくなります。心筋症は遺伝的要因や、心臓に負担をかける他の病気が引き金となることがあり、進行すると重度の心不全に至ります。
貧血が進行すると臓器に十分な酸素供給ができず、心臓が過剰に働き血液を送り出そうとします。重度の貧血は心臓の負担となり心不全を発症します。貧血の適切な治療で心臓の機能は回復します。
自覚症状の確認
心不全では、坂道や階段で息切れが強くなったり、動悸を感じたり、胸部圧迫感を感じます。徐々にむくみが強くなります。特徴的な自覚症状に「夜間起座呼吸」という症状があり、座っているよりベッドなどに横になっている時の方が呼吸は苦しくなります。
問診
心不全の症状の確認だけではなく、生活習慣病や腎臓や甲状腺疾患の病気の確認も大切です。
身体所見
心不全は身体に水分を貯めてしまう病気でありますので、心不全の患者様で多くみられる症状である両足の浮腫を確認します。眼に現れる貧血の確認や聴診で肺や心臓の音に異常はないか確認します。また脈が乱れていないか検脈を行います。
胸部レントゲン検査
胸のレントゲンで心臓が大きくなっていないか、胸水が貯まっていないか確認します。
心電図検査
心電図で不整脈の確認を行います。
血液検査・心エコー検査
血液検査で心臓の負担を示すNT-proBNPやBNPの値を調べます。心エコー検査で直接心臓の動きを調べ、心臓の機能を評価します。
症状の軽減や病状の進行を遅らせること、生活の質を向上させること、そして長期的な予後を改善することを目指します。
心臓の筋肉が重度のダメージを負う前のできるだけ早期に治療を開始すれば健康な方と同じくらい心臓の機能を温存することができる可能性があります。
心不全は悪化と改善を繰り返しながら徐々にポンプ機能が失われていく病気です。
患者様、ご家族様が心不全の理解を深めていただき、生活習慣の改善やお薬の服用を忘れないように気をつけていきましょう。
治療の基本は薬物療法です。心不全の原因に対する治療としてカテーテル治療、ペースメーカー治療、心臓外科手術があります。
治療方法の選択は、心不全の原因、症状の重さ、患者様の年齢や全体的な健康状態に基づいて専門的な判断が必要であり、個別に決定されます。
心不全は慢性的に徐々に進行する可能性がある病気です。日々の生活の質を向上させ安定した生活を送るためにお薬の服用は欠かせません。
1980年代の心不全の治療には、弱った心臓を興奮させ血液を送り出す薬(強心薬)が用いられておりましたが、多くの臨床試験の結果、その効果は一時的で長期間の内服はむしろ悪化させてしまうことがわかりました。
1990年代に心臓を無理して興奮させず逆にリラックスさせるβ遮断薬と呼ばれるお薬が用いられるようになり、心不全の患者様の予後を大きく改善することができるようになりました。β遮断薬は現在でも心不全の治療に重要な役割を果たしております。ただし、心臓をリラックスさせすぎてしまうと心臓のポンプ機能が悪化してしまうため、専門医のさじ加減が必要なお薬です。
2000年代になり、血圧や体液量を調整する役割のあるレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系と呼ばれるホルモンが心不全に関連していることが知られ、そのホルモンに作用するお薬であるアンギオテンシン転換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、ミネラルコルチコイド阻害薬(MRA)などの多くの薬剤が開発され心不全の予後を改善することが示されました。
最近では、ARNI(アーニ)と呼ばれるアンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬が登場し、ACE阻害薬やARB以上の効果が期待できます。
さらに糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬が心不全や慢性腎臓病の治療に大きく貢献することが報告されました。
心不全は、「体に水分を蓄えてしまう病気」です。蓄えてしまった水分は利尿剤を内服し、体の外に水分を排出してあげる必要があります。利尿剤を使うことで心不全の状態は改善しますが、逆に腎臓の機能を低下させてしまったり、長期的な使用は予後を悪化させてしまったりする可能性があります。
β遮断薬、ARNI、ミネラルコルチコイド阻害薬、SGLT2阻害薬の4種類のお薬は「ファンタスティック4」と呼ばれ、心不全治療の中心的な役割を担っております。特にARNI、SGLT2阻害薬は、利尿剤の使用量を減少させるとともに心不全での入院や生存率を改善させることが報告されております。
心不全は、増悪と寛解を繰り返しながら徐々に進行する慢性疾患であるため、定期的な通院でこまめな管理が必要です。
こまめな管理を行い、お薬を調整することで、悪化することを予防し再入院を予防することができます。
心不全は長くお付き合いしないといけない病気であります。
水分の過剰摂取や塩分過多、お薬をきちんと内服できていないなどの生活習慣が原因で悪化することも多いです。
患者様やご家族が十分に病気を理解し適切なセルフケアができるようになることが、生活の質を保つために必要です。
心不全の患者様はご高齢な方や合併症をお持ちの方も多くいらっしゃいます。患者それぞれの生活環境や健康状態を考慮した治療計画が重要です。当院では総合的な健康サポートを行います。
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