
失神
失神
失神とは脳に十分な血液が流れず、一時的に意識を失い自然に回復するものをいいます。
脳に血液が十分に流れない状態が5〜10秒程度続くと意識がなくなり、15秒以上ではけいれん発作が起こります。通常は、数秒から数分で意識が回復しますので後遺症も残りません。
失神の原因には、体質的な問題、心臓や脳の疾患などさまざまな原因がありますが、多くの患者様は病院を受診した際に症状がないため診断が非常に難しいことがあります。
失神は、一般的には脳の病気と思われがちですが、30〜40%の失神患者は反射性失神であり、10〜15%の患者では心臓疾患が原因となります。心臓の病気が原因である場合は、失神発作だけでは済まず、そのまま命を落としてしまう可能性もあるため注意が必要です。
失神の中で最も多いのは反射性失神です。このタイプの失神は自律神経反射に深く関与しています。自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経はストレスなどで体が緊急な状態になった時に働き、血圧を上げたり心拍数を上げたりします。一方、副交感神経は体をリラックスさせるように働き、血圧を下げたり、心拍数を下げたりします。
さまざまな誘因により交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまい、血圧が下がりすぎてしまったり、脈拍が遅くなりすぎたりしてしまうことで失神を引き起こしてしまいます。
長時間立ったままの状態、満員電車内、美容室や歯科治療中に緩やかな角度で座っている時などに起きやすいです。例えば全体朝礼で倒れてしまう人を目撃されたことはないでしょうか。
その他、光や音、入浴などでも反射性失神を起こす可能性があります。
前駆症状として、体に熱感を感じる、口が乾く、胃がムカムカする・吐き気、あくびが出る、めまい、冷や汗、などを感じます。これらの前駆症状を伴って失神するような場合は、反射性失神の可能性が高いです。
失神を繰り返し、頭のけがや骨折しないことが大切です。
反射性失神は前駆症状を伴うことが多いので、症状を感じたらすぐにしゃがむ、すぐ横なるようにして失神を起こさないようにします。
チルトトレーニングとは、踵を壁から15cmほど離した状態で、頭、背中、お尻を壁に密着させて姿勢で立ち、その姿勢を30分間保つというトレーニングです。
トレーニング中に気分が悪くなったり、前駆症状を感じたりした場合は無理せずトレーニングを中断します。毎日2回程度トレーニングを行い、徐々に時間を長くしていき30分間続けられるようになると失神の再発予防になります。
人が立ち上がると体内の血液がお腹や足に移動します。その量は500〜800mlにもなり、その影響で心臓から送り出される血液の量が減ってしまいます。心臓から送り出される血液の量が減ってしまうと、心臓は脈を増やしたり、収縮する力を強めたりして血液の量を保とうとしますが、その調節ができなくなってしまった時、立ち上がった際に血圧が低下し、動悸、立ちくらみ、ひどくなると失神発作を起こします。
反射性失神と違って、失神を起こす前に脈が速くなることが特徴です。
起立性低血圧は、立ち上がった後3分以内に血圧が収縮期血圧(高い方)20mmHg以上、拡張期血圧(低い方)が10mmHg以上低下することで診断されます。
特に高齢者の場合、起立性低血圧は頭部外傷や骨折のリスクとなるため注意が必要です。
失神の10〜15%の原因が心臓に由来するものです。
その中で代表的なものが不整脈です。脈拍が非常に速くなり心臓から血液を送り出せなくなる場合や、脈拍が非常に遅くなり脳に十分な血液が送り出せなくなった場合に失神発作が起こります。
一時的であれば失神発作を起こし自然に回復しますが、不整脈が続き脳への血流が途絶えてしまう場合はけいれん発作を起こし、最悪の場合、命を落とすほど重篤になることがあります。
不整脈以外の心臓の病気でも十分な血液が送り出せなくなった場合にも失神発作を起こします。
心臓弁膜症、肥大型心筋症、心臓腫瘍、肺動脈血栓塞栓症、大動脈解離
失神は脳疾患が原因と考えられやすいですが、脳疾患が失神の原因となることは稀です。
脳血管の動脈硬化や小さな血栓によって起こる一過性の脳虚血が椎骨脳底動脈に起こると失神発作を誘発する可能性があります。頭部MRI検査で椎骨動脈の動脈硬化がみられる場合は血液サラサラのお薬が必要となります。また脱水や血圧の変動などの影響も受けますので脱水にならないように注意しましょう。
大切なのは重篤になる可能性の高い疾患を見逃さないことです。
失神の原因には、体質的な問題、心臓や脳の疾患などさまざまな原因がありますが、多くの患者様は病院を受診した際に症状がないため診断が非常に難しいことがあります。
失神の診断には患者様から詳細な病歴を聴取する問診が重要となります。
詳細な情報をもとに失神の原因を推測していきます。特に前兆のない失神、運動している際の失神、動悸を自覚した直後の失神、横になっていても失神する場合は不整脈の関与が疑われます。
問診した上で検査を進めていきます。
特に失神の原因に不整脈が疑われる場合は、長時間ホルター心電図も必要です。
ただし、いつ起こるが分からない失神発作の原因となる不整脈を見つけるのは簡単ではありません。心電図を記録する時間が長いほど診断の精度を上げることができます。
24時間タイプのホルター心電図検査より1週間記録できるリードレスホルター心電図の方が有効です。
さらに有効な検査方法として植え込み型心電計があります。
植え込み型心電計は、心臓前面の胸部の皮膚の下に3〜5年間心電図を記録し続けることができる器械を挿入します。
植え込まれた器械は回線を介して病院へ心電図情報を送信することができ、医師の判断のもと患者様へ必要な治療法の提案を行うことができます。
1cm程度皮膚を切開する必要がありますが、入院の必要はなく外来で行える処置です。
器械に内蔵されたバッテリーが消費された場合は、器械を取り出す処置を行います。
その他、患者様でも行える方法としてApple watchの装着があります。
心エコー検査では、心臓の筋肉の状態や大きさ、弁の性状などを確認し、心臓弁膜症や肥大型心筋症などの疾患を調べます。
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