2025年12月14日

William Oslerの「人は血管とともに老いる」という有名な言葉があります。動脈硬化は加齢とともに進行し、糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症などの生活習慣病によってさらに悪化を加速し、脳心血管(脳卒中や心筋梗塞など)や腎臓などに後戻りできない障害を引き起こします。
今回は、健康診断で多くの方が指摘されるコレステロールについてのお話になります。
コレステロールが高くても症状はなく日常生活に支障を来すことはありません。しかし、ゆっくりとではありますが確実に血管へダメージが蓄積され動脈硬化が進行し、将来的に脳卒中や心筋梗塞などの命や生活に影響を及ぼす病気へと進行する可能性があります。
男性では、30歳以降、肥満傾向にある方、多忙で運動不足の方、食生活が乱れている方で一般的に高くなりやすい傾向があります。女性も更年期を迎える頃から、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少するため、エストロゲンの材料であるコレステロールが体に蓄積し、体重に関わらずコレステロールが高くなりやすくなります。
コレステロールと認知症の関係
2012年、65歳以上の高齢者3079万人に対して認知症と診断された患者さまは462万人(15.0%)でした。人口の高齢化に伴い認知症患者の増加が予想されておりましたが、2022年の認知症患者の割合は12.3%(65歳以上の高齢者3603万人中、433万人)と割合では減少しておりました。これは、皆さま一人一人の健康意識の高まりや、近年の様々な治療薬による高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などの生活習慣病の早期治療が認知症の抑制に貢献していると考えられます。
高コレステロール血症で最もよく用いられるスタチン系薬剤は、マウスを用いた動物実験で記憶機能の改善効果が認められ、アルツハイマー認知症で認められるアミロイドβ老人斑を有意に抑制する効果が認められました。
中年期(45歳から65歳くらい)からの高コレステロール血症は、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症のリスクを増加させます。また、最近の研究でもLDLコレステロールを適切に管理することで、認知症のリスクを大幅に減らすことが明らかとなっております。海外で行われた大規模研究の結果、LDLコレステロールを70mg/dl未満に保った方は、130md/dl以上の方と比べて、認知症のリスクが26%も低下することが認められました。スタチン系薬剤を服用しLDLコレステロールを70mg/dl未満に管理した方でも認知症のリスクが13%も低下することが報告されております。
参考文献:
1)Updating the Evidence on the Association between Serum Cholesterol and Risk of Late-life Dementia: Review and Meta-Analysis. Kaarin J Anstey et al. J Alzheimer Dis. 2017.
2)Lower LDL of ‘Critical Importance’ in Reducing Dementia Risk. Jeff Craven. April 02, 2025
3)神経治療2018; 35: 380-4 : 阿部 康二
コレステロールは治療すべき?
LDLコレステロールが高い=すぐに危険とはなりません。長い年月をかけて動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞になる危険性が高まります。高血圧、糖尿病、喫煙、遺伝的要因などが加わることで動脈硬化の進行が速まります。
「一次予防」~心筋梗塞、脳卒中などを未然に防ぐために・アンチエイジング~
1次予防・アンチエイジングのためには、LDLコレステロールを概ね120~140mg/dl未満にコントロールすることが望ましいとされております。糖尿病などの動脈硬化を進行させるリスクファクターをお持ちの方は、より厳しい目標値が設定されます。
では、一次予防は必要なのでしょうか?
福岡県の久山町で1988年から24年間、40歳以上の町民を対象に追跡調査が行われ、心筋梗塞や脳卒中の発症率が調べられました。その結果、コレステロールが単独で高いというだけでは、10年以内に脳卒中や心筋梗塞などを発症するリスクは低いと考えらます。
しかし当院にて2025年7月から11月までのわずか4か月の間に、単独でコレステロールが高く未治療の2名の患者さまで高度な内頚動脈狭窄症がみつかり総合病院に紹介となりました。このような実例から、実際にはLDLコレステロールの数値だけをみるのではなく、患者さまを診ることが大切であると考えられます。
また、前述の通り脳の健康状態を保ち認知症を予防するためにはコレステロールは低く管理された方が望ましいと考えられます。
「二次予防」~脳卒中や心筋梗塞を繰り返さないために~
二次予防では、LDLコレステロールを100mg/dl未満にコントロールすることが目標とされます。特に心筋梗塞を起こした患者さまでは、70mg/dl未満まで下げる厳格な治療目標が推奨されます。
まとめ
認知症の予防は、高齢期から始めるものではありません。30~40代からの生活習慣病の改善が、将来的な脳の健康状態の改善へとつながります。まずは健康診断などで自身のコレステロール値を知り、生活習慣の改善を心掛けましょう。ビタミンCやE、βカロチンなどの摂取を心掛け、また週3回以上、1日30分程度の適度な有酸素運動などを行いましょう。
LDLコレステロールは、低ければ低いほど動脈硬化の予防につながりますが、どこまで下げるべきかは主治医と相談しましょう。正しい知識と対策で健康寿命を延ばしていきましょう。
LDLコレステロールの目標例
1. 一般的な健康な方(低~中リスク):140mg/dL未満が理想的です。
2. 危険因子のある方(高リスク):120mg/dL未満が目標です。
※ 糖尿病をお持ちの方は100mg/dL未満
3. 心筋梗塞や脳卒中を既往にお持ちの方:70mg/dL未満が目標です。
